目の錯覚

 垂れたロープ見なくても登った時点でかぶりの程度は嫌でも分かるのだけど、見上げているだけではなかなか分からない。この程度のかぶりなら、ガバだし、と思って取りつくとひどい目にあう。目の錯覚なんだろうけど、人は何事も自分に都合の良いように解釈してしまうものだから。

 人間はそもそもドッカブリを登るようにはできていないのだからハナから無理があるよね。コンクリート吹付の道路法面みたいなスラブだって同じ。蟻んこじゃあるまいし。でも、だからこそ面白いんだよね。

 こりゃ別にクライミングに限ったことじゃない。山登りだって、どんなスポーツだって、わざわざ困難を求めるという基本は同じ。もっと言やあ、あらゆる趣味も、仕事もそう言えなくはない。こんな寒い時季は炬燵に入ってミカンでも食ってぐだぐだテレビでも見ている方が楽に決まっているのにねえ。「世の中に寝るほど楽はなかりけり。浮世のバカは起きて働く」という名言もある。

 詰まるところ、達成感なんだろうけど、そんなもん無しで生きていけないのかね。食うに困れば達成感どころじゃない。生き延びることが目的になる。だからね、クライミングというのはとても贅沢な遊びであって、登りたいと思うこと自体が既に幸せは実現されているということなんだよ。って良いように解釈しすぎかな。