天然の岸壁

 我々以外はお二人しかいない。みんなどこに行ったのだろう。カサメリ沢辺りは涼しそうではあるけど、今年は雨が多いのでまだちょっと無理のように思える。

 よくあることだけど特にこの岩場は人里離れた山の中なので、ここに来るまでの道はなかなかのダートだし、ケータイの電波は全く入らない。クライマー以外でこの辺に入ってくるのはハンターか釣り人くらいで、極稀に何の間違いかペッタンコのオープンカーが迷い込んで来たりはする。つまり世の中と隔絶している。クライミングエリアとしてはある意味とても理想的。

 現実からの逃避じゃねえかと言われればまあその通り。なんだけども、フツウの目で見ればとても人間の力では太刀打ちできそうにない天然の岸壁をあれこれ駆使して何とかするという行為がクライミングの本質であるし、このバカげた行為に熱中するのは他人に見せたり評価してもらうためじゃない。逃避じゃなくて、人生にプラスする何かを得るためなんだよ。そうだよね! 確かに世の中のためには何の役にも立ってないが、それほど他人に迷惑もかけてない。

 まあこれも食うに困っていたり足元で大災害があったりすればやっていられないけど、もうしばらく世の中が平和な間は幸福を追求する権利を行使しても良いでしょ。  (G3)